profile

MAI SUZUKI

Artistic Direction / IKI Project Design/ Product Design

1998 年東京生まれ。「生粋 namaiki」主宰。“粋”をさまざまな視点から探求し、“粋”の宿る伝統工藝「組子」を通じて「真の豊かさとは何か」を問う。
組子職人のもとで技術を学び部品を3Dモデル化。伝統工藝とテクノロジーを組み合わせ、未知なる可能性をデザインする。電通を独立後、プロダクトデザインを軸に戦略企画から携わる。現在、東京都「江戸東京きらり」の事業者の最年少パートナーとしてプロジェクトを牽引する。

主なメディア出演に、日経MJ(2023)、TSKテレビ「TAKUMI」(2022)、「AXIS Web magazine」(2022)、「The Japan Times」(2022)、「商店建築(1月号)」(2023)、「装苑(3月号)」(2023)がある。Forbes Japan(2023.09)では 「デジタル時代の粋」について執筆。

鈴木舞プロフィール写真

story

9歳の頃、書道の美しさと出会う
9歳の頃、友人に誘われて地元の書道教室に通い始めた。
はじめは筆で文字を書くこと自体が面白くどんどん書道の世界に惹かれていった。
続けるうちに書道の心に魅力を感じるようになっていく。
当時小学生で取得できる最高段の四段まで取得するするほどだった。
「字は体を表す」という言葉があるが、字を見れば、その人の人となりがわかるという言葉がある。
急いで乱雑に書いてもていねいに書いても同じ言葉かもしれないが、
書にはその人の性格や心が現れる。
言葉では嘘をつくことができても、心は嘘をつくことができない。
つまり、「書を通じて心で会話している」のである。
だから自分にとって「書道」の美しさとは、美しい文字を書くことだけでなく、書を通じた何かとの心の会話であるということである。
そんな書道の心に惹かれたのをきっかけに、日本古来から伝わる文化や精神に魅力を感じるようになった。

習字の写真

一人の匠との出会い
大学4年生で就職先も決まり、
のんびりとした生活を送っていたある日、
一枚の写真が目に留まった。球体組子の写真である。
繊細で緻密で奥深い美しさを宿した作品。
「どうやって作っているんだろう。」
「どんな人なのだろう。」「会ってみたい。」
気がついたら電話をかけていた。
緊張しながら想いを伝えると
「いつでも来ていいよ」という優しくあたたかい声がかえってくる。
そうして翌日、14時間夜行バスに揺られ、島根へ向かう。
そして3時間の山道を歩き、一人の匠、門脇和弘氏と出会った。
彼は10年もの年月をかけ、唯一無二の完全球体の組子を発明した、
究極の遊び心をもつ職人である。

美しい“粋” ざまに惚れる
彼の息を呑むほど美しい作品と、
それを見つめる職人の眼差しと生き様に感銘を受けた。
人情深い人柄、ユーモアにあふれた話、欲をもたない考え方、
不便ささえも面白がってしまう遊び心......。
生き方そのものが美しくて格好いい。
電車はなく、バスも3時間に一本しかない山奥に潜む工房で目にしたのは、作品だけでなくまるでタイムスリップしたかのような昔ながらの生き方、自然と共存する暮らし、遊びから生まれる知恵に溢れた生活だった。東京生まれ東京育ちの自分には 想像もできない宝のような世界が広がっていた。
必要なものや道具は季節に合わせた資材で自分でつくり、
夏は水舎を作って川で地元の小学生と遊び、
秋は栗を拾って栗ご飯をつくる、
夜は毎日地元の幼馴染たちと工房に集い宴をする。
枠にとらわれず、自由で遊び心溢れ、人情深い職人の粋き様は 自分の人生に新たな選択を与えてくれたような感覚だった。

日本で2人目の完全球体の組人になる
その後、門脇氏のいる島根県へ何度も遊びに行くようになる。
ただ単に、彼といる時間が楽しくて、そして島根での暮らしが新鮮で宝のような体験だったから。
何度も通ううちに「球体をつくってみるか?」と声をかけてもらった。「ぜひ作ってみたいです!」と言葉が先に出ていたが、正直、十年もの年月をかけて作り上げた技術を教えてもらうのはとても怖かった。
だからこそ、必死に学んだ。夢中になって組み続けた。球体組子を完成させると「自分以外で初めて完成させたよ。よくがんばった。」と2人の球体組子の組人として認めてもらった。それが嬉しくて、面白くてたまらなかった。
その後、自分にもなにかできないかと思い、立ち上げたのが 「生粋namaiki」プロジェクト。自分が惚れて生きることがより面白くなった「粋」を伝えたい。そして彼の粋き様の宿る技術の可能性を拡張させ、未来の生き方をつくりたい。そんな思いだった。

伝統工藝×先端テクノロジーの研究
その後、技術の可能性を拡張するため、球体組子全てのパーツを3Dモデルデータ化し、東京ではデジタル上で研究を続け、島根では職人の背中を見て学び続けた。
そうして、デジタル上とリアルとを行き来していると面白いことを発見した。立体組子の制作過程では、ヒトの手の方が機械より優っている部分があるのだ。普通ならデジタル上で計算しパーツを設計して組み上げて検証した方が早く正確に計算できるはずだが、人間の手作業の「あいまいさ」が、デジタル上では破綻している形状でもヒトの手では実現可能にすることもある。そこで伝統的な技術と先端テクノロジーの両者を丁寧に因数分解し、フラットに比較して見て、抽出し、融合させたり、併立させることにチャレンジしている。
現在は私が3Dモデル上でデザイン検討をし、独自開発したエクセルで計算しパーツの設計をする。その上で職人の暗黙知である今までの経験値や知見をもとに感覚的に適切な設計であるか、などの実現可能性を探っていく。どこを職人の手作業で行うか、どこをテクノロジーに任せるか、慎重に吟味しながら何度も話し合いを重ね、作品の制作に移る。そして、それらの作品も「粋」を伝えるひとつの方法として表現することを目指している。

「粋」採集から「粋」を探求する
江戸時代に生まれたとされる日本独自の精神「粋」。「粋」を伝えたい、と思ってもなかなか言語化が難しいく、つかみどころのない言葉でもある。
だから、まずは江戸時代の「粋」から探ってみることにした。
例えば、傘の滴で相手をぬらさないよう相手と反対側に傘を傾ける「傘かしげ」、どこか現実を突き放し、面白がってしまおうとする精神「洒落」、隣家の人が一日ご飯を食べた気配がなければ、それを察して前掛けに隠してにぎり飯のひとつでも届けに行く「おたげえさま」、庶民の華美、贅沢を禁じた幕府の奢侈禁止令に対して、茶や黒、鼠系統の地味な色合いに様々な変化をつけて「染め」を楽しんだ「四十八茶・百鼠」など、異文化の人々が集い禁制の厳しかった江戸で育まれた「粋」の根底にあるのは「どんな状況でも生きることを面白がる心」であると私は解釈している。これらを採集し、探求し、表現することで、「粋」を生かすヒントを探り続けている。

advisor

KAZUHIRO KADOWAKI

組子職人

1958年島根県安来市生まれ。日本で唯一、完全な球体組子を生み出した組子職人。高校卒業後、木工職人である父の姿に影響を受け、組子職人を目指す。独学で技術を学んだ後、約3年間、奈良県の建具屋で修行を積み、地元の島根へ帰る。それから組子職人として建具の襖や欄間の制作に勤しむ。かつては建具として活用されてきた組子細工は、生活様式の変化に伴い、建築物からは和室が減り、その技術を生かす場所がなくなりつつあった。さらに、職人間で起こる価格競争に直面し、新たな組子細工の市場を創造することを目指し、35歳のとき、アートとしての組子細工の制作を始める。平面の組子しか存在しない中、従来の概念にとらわれない、曲面の組子細工の制作に取り組む。小学6年生の頃、陶芸で制作したサッカーボールの作品から発想し、約10年の年月をかけ、球体組子を完成させる。完成から約20年、作った作品を人に伝える難しさを感じていたところ、突然島根に訪れたデザイナー舞との出会いをきっかけに、組子の新たな可能性を探る作品を共同開発するようになる。提案されたアイデアに対して、自身の持つ組子細工の技術を拡張させ、従来の既成概念に囚われない、新たな組子細工の可能性を魅せるものづくりを遊び心を持って挑戦する。

門脇和弘プロフィール写真

movie

「組子」とは
「組子」とは、細い木片を釘を使わずに組み合わせ、緻密な幾何学的紋様を生み出す伝統木工技術のこと。
寸分のずれも許さない、磨き抜かれたこの技術は、職人たちによって飛鳥時代から現代まで何世代にも渡り引き継がれてきた。